――ドキュメンタリー映画『あまくない砂糖の話』を観て
オーストラリアのドキュメンタリー映画『あまくない砂糖の話(That Sugar Film)』は、砂糖が体に与える影響を身をもって実験した作品だ。監督・主演はデイモン・ガモー氏。彼は、自身の体を使って「1日スプーン40杯分の砂糖を60日間取り続けたら、体と心にどんな変化が起こるのか?」という大胆な検証を行った。
ポイントは、彼が摂取したのがケーキやアイスといった“わかりやすく不健康”な食品ではなく、シリアルや低脂肪ヨーグルト、スポーツドリンクなど、いかにも「ヘルシー」そうな加工食品ばかりだったという点だ。
そして2ヶ月後、彼の身体には明らかな変化が表れた。
- 体重:約9kg増加
- ウエスト:10cm増加
- 肌:吹き出物が多発
- 精神状態:不安定に
- 肝臓:脂肪肝の兆候が出現
まるで別人のように変わってしまった姿には、視覚的にもインパクトがある。
映画の主張と科学的な視点のズレ
ただし、この映画が主張する「砂糖=肥満の元凶」という構図には慎重な視点も必要だ。実は、オーストラリアにおける砂糖の消費量は近年減少傾向にある一方で、肥満率は上昇しているというデータもある。
さらに、1995年の大規模メタ分析など複数の研究では、「脂肪摂取と肥満には明確な関連があるが、砂糖の摂取量とは関連が見られない」といった結果も報告されている。つまり、カロリー全体の摂りすぎこそが問題であり、必ずしも“砂糖だけ”が原因とは言い切れない。
本作では「果糖が肝臓に脂肪として蓄積しやすい」とも言われるが、これも摂取カロリーが過剰でなければ、人体は糖質を適切に処理できる。結局のところ、ガモー監督が太ったのは、砂糖のせいというより「カロリー過多」によるものではないかという見方もできる。
それでも共感できる部分は多い
とはいえ、映画が提起する問題意識そのものには共感できるポイントも多い。
たとえば、加工食品が脳を過剰に刺激し、満腹感を感じにくくするという指摘。これは「超常刺激」と呼ばれる心理的現象で、モスの著書『フード・トラップ』でも言及されている。映画の中で監督が情緒不安定になり、常に空腹感に襲われるようになるのも、この影響ではないかと思われる。
また、「フルーツは丸ごと食べるべきで、ジュースにしてしまうと食物繊維などの大事な栄養を失う」という主張も、非常に納得感がある。実際、丸ごとの果物を摂取した場合は肥満リスクが下がるという研究も多く、砂糖入りの飲料とはまったく異なる結果になる。
映画中に登場するアボリジニーの人々の健康被害や、2歳からマウンテンデューを常飲していた少年の歯の映像は、視覚的にも強烈で説得力がある。肝臓や脳の機能をCGでわかりやすく解説するシーンなど、エンターテイメントドキュメンタリーとしての見せ方もしっかりしている。
ちなみに、ヒュー・ジャックマンやブレントン・スウェイツなど、意外な俳優がカメオ出演しているのも見どころの一つだ。
結論:エンタメとして楽しみつつ、情報は冷静に受け取る
総じて、本作は『スーパーサイズ・ミー』のような、エンタメ系健康ドキュメンタリーとして非常に見応えのある作品だ。一方で、その主張が科学的に完全に裏付けられているかというと、やや疑問が残る部分もある。
ただ、「健康的に見える加工食品にもリスクがある」というメッセージには学びがあるし、少なくとも食習慣を見直すきっかけにはなるだろう。
砂糖をどう捉えるかは、人それぞれの価値観や生活スタイルによって異なる。ただ、賛成派・反対派どちらの立場であっても、一度この映画を観たうえで、自分なりに考えてみるのは価値があるはずだ。
※日本での公開は3月予定とのこと。興味のある方はぜひチェックを。
には、視覚的にもインパクトがある。
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