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メラトニンによる運動パフォーマンス向上効果のメタ分析:科学的根拠と限界

メラトニンは、睡眠の質や入眠をサポートするホルモンとして広く知られており、多くの人が快眠のためにサプリメントとして利用しています。メラトニンは脳の松果体から分泌され、主に睡眠・覚醒のリズムを調整する役割を担っています。夜間、暗くなることで分泌量が増加し、自然な眠気を促す仕組みとなっています。そのため、睡眠の質や量が不足している場合、メラトニンの補充は有用とされています。

近年では、メラトニンの効果は睡眠にとどまらず、免疫機能の調整や抗酸化作用、血糖コントロールなど、さまざまな生理作用への影響も注目されています。その中でも、「メラトニンは運動パフォーマンスの向上にも寄与するのではないか」という仮説が以前から議論されてきました。

メラトニンと運動パフォーマンス:新たなメタ分析の概要

2023年に発表された最新のメタ分析では、メラトニンが運動パフォーマンスに与える影響について、過去の21件の研究(合計386名の参加者)を統合し、検証が行われました。このメタ分析で取り上げられたメラトニンの使用方法は、サプリメントの摂取期間が1~14日間、用量は1日あたり5~12mgという設定です。分析対象となった主要な評価項目は、有酸素運動のパフォーマンス、筋力パフォーマンス、および抗酸化レベルでした。

メラトニンが運動能力に与えるメカニズムとしては、以下のようなものが考えられています。

  • 睡眠の質の改善を通じて、間接的に運動パフォーマンスをサポートする作用
  • トレーニング後の酸化ストレスや炎症を抑制し、回復を促進する可能性
  • 体温を下げる作用により、運動中の熱産生の影響を和らげる効果
  • 血糖コントロールを改善し、筋肉のエネルギー源であるグリコーゲンの枯渇を防ぐ働き

これらの点から、メラトニンは複数の経路を通じて運動パフォーマンスの向上に寄与する可能性が示唆されてきました。

メタ分析の主な結果と限界

実際の研究結果を見ると、以下のような傾向が明らかになりました。

  • メラトニンの摂取は、有酸素運動のタイムトライアルやVO2maxなどで測定した場合、パフォーマンスに有意な向上をもたらす証拠は見つかりませんでした。
  • 筋力(ハンドグリップ)については、わずかにプラスの効果が見られたものの、統計的には有意な違いとは言えませんでした(効果量 ES = 0.19, 95%CI = -0.28~0.65)。
  • 一方で、メラトニンは抗酸化物質であるグルタチオンペルオキシダーゼのレベルを有意に上昇させる効果が確認されました(ES = 1.40, 95%CI = 0.29~2.51)。

このように、メラトニンには酸化ストレスを低減させる効果が期待できるものの、運動パフォーマンスそのものを直接的に向上させる証拠は十分とは言えません。加えて、分析対象となった研究のサンプルサイズが小さいことや、統計処理に誤りがあった可能性も指摘されており、信頼性には一定の限界が見られます。

実用的なまとめと推奨事項

まとめると、現時点での科学的根拠からは、メラトニンが運動パフォーマンスを大きく向上させるサプリメントであるとは言い難い状況です。抗酸化物質の補給源としては短期的な効果が期待できるかもしれませんが、運動能力の向上を目的に摂取するには根拠が十分ではありません。他の抗酸化作用を持つ食品、例えばタルトチェリーなどの方が、運動パフォーマンス改善に関するより良いデータが蓄積されています。

一方で、睡眠不足が運動パフォーマンスを著しく低下させることはよく知られています。そのため、メラトニンの本来の用途である「睡眠改善」を目的に使用し、その結果として間接的にパフォーマンスの低下を防ぐというアプローチには一定の意味があるでしょう。

なお、市販されているメラトニンサプリメントの多くは1回あたり5~10mgの摂取を推奨していますが、睡眠改善の目的であれば実際には0.1~1.0mgという少量でも十分な効果が認められています。理想的には、眠りにつきたい時刻のおよそ1時間前に1mg以下のメラトニンを摂取することで、快眠効果を得つつ翌朝の眠気を最小限に抑えることが可能です。睡眠に課題を感じている方は、このような方法を参考にしてみるとよいでしょう。

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