――メタ分析が明かす、エイジングと炎症の真実
加齢とともに体内でじわじわ進行する「慢性的な低レベル炎症」は、心疾患やがん、慢性痛、早期死亡など多くの健康リスクの根幹にあります。最近ではこの現象を「インフラメイジング(inflammaging)」と呼び、炎症(inflammation)と老化(aging)を組み合わせた造語として、広く認識されるようになっています。老化とともに細胞のごみ(老化細胞)が蓄積したり、腸内細菌のバランスが崩れることで、炎症が慢性化していくことが主な要因と考えられています。
運動はインフラメイジング(老化炎症)を防げるのか?
運動は一時的に炎症を高めるものの、長期的には体内の修復システムを活性化させ、インターロイキン-10などの抗炎症物質の分泌を促進することが分かってきました。つまり、短期的な負荷が長期的な健康効果につながる“体の鍛錬”というわけです。
最近、レアル・マドリード大学院などの研究チームが「運動習慣がインフラメイジングにどれほど効果を持つか?」というテーマでメタ分析を実施しました。分析対象は、35歳以上で長年運動を続けてきた「マスターズアスリート」、同年代の運動習慣がない一般人、運動をしていない20代の若者という3グループ。17件の研究(計649人)を比較し、運動と炎症レベルの関係を検証しています。
マスターズアスリートは炎症レベルが低い――だが若さには勝てない
メタ分析の結果、長年運動を続けているマスターズアスリートは、同年代の運動習慣がない人々に比べて、慢性炎症マーカー(CRP:C反応性タンパク)が有意に低く、抗炎症性サイトカイン(インターロイキン-10)は有意に高いことが分かりました。つまり、加齢による炎症の進行をかなり抑えられているということです。持久系の運動を長年続けることは、インフラメイジングに対する「ワクチン」のような役割を果たしてくれる可能性が高いと言えるでしょう。
ただし、さすがに「運動しまくっている中高年」が「何も運動していない20代の若者」より炎症レベルで若返ることはできませんでした。若さにはかなわない、というのが現実です。
どんな運動がインフラメイジング対策に有効か?
データを細かく見ると、持久系の有酸素運動(ランニング、サイクリングなど)はCRP低下や抗炎症性サイトカイン増加といった効果が安定して見られました。一方、筋トレについては研究数が少なく、明確な結論はまだ出ていません。
特に注目すべきはインターロイキン-6(IL-6)の動きです。IL-6は運動直後に急上昇し、炎症抑制方向に働く一方で、平常時に高すぎると逆効果になる厄介な分子。適度な有酸素運動によって、このIL-6が適切にコントロールされることも示唆されています。
実践のポイント:どれくらい運動すればいいのか?
最適な運動量や方法は明言できませんが、過去の知見からは以下が推奨されています。
- 週3回・30分の中強度ジョギング
最大心拍数の60〜70%(ややきつい、鼻歌がギリギリ歌えない程度)で30分。時間がなければ15分でも効果あり。 - 毎日10分のテンポウォーキング
普通よりやや速め、少し息が上がるペースで歩く。これだけでもCRP低下や抗炎症性サイトカインの増加が期待できます。
運動の上級者はより高い負荷のエクササイズも良いですが、「毎日少し体を動かす」だけでも十分にインフラメイジング対策になります。大事なのは、無理なく継続できる運動習慣を持つことです。
まとめ
年齢とともに増える慢性炎症(インフラメイジング)には、長期的な有酸素運動が有効な対策となります。運動を習慣化すれば、同年代の平均よりも体内年齢を若く保つことは可能ですが、若さそのものには及びません。無理のない範囲で日常的に体を動かし、“体内の若さ”をキープしていくことが、健康長寿の秘訣と言えるでしょう。
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