M:お金

科学が解き明かす「お金の心理学」

なぜ私たちは金銭的判断を間違えるのか

公開日:2025年6月22日

お金に関する判断は、私たちが思っている以上に感情的で、非合理的なものです。なぜ年収が高い人でも貯金ができないのか?なぜ投資で損をする人は同じ失敗を繰り返すのか?なぜクレジットカードを使うと支出が増えるのか?これらの疑問に答えるカギは、人間の脳がお金をどのように認識し、処理しているかという「お金の心理学」にあります。

最新の脳科学研究と行動経済学の知見を基に、私たちの金銭的判断を歪ませる心理的メカニズムを解明し、それを逆手に取った賢いお金の管理術をご紹介します。


脳科学が暴く「お金への欲望」の正体

スタンフォード大学の神経経済学者ブライアン・クヌートソンの研究によると、お金を得ることを想像するだけで、脳の報酬系(特に側坐核)が活性化し、ドーパミンが分泌されることが分かっています。これは、薬物依存や ギャンブル依存と同じ脳内メカニズムです。

興味深いことに、この報酬系の活性化は「お金を実際に手に入れた時」よりも「お金を手に入れることを期待している時」により強く起こります。これが、宝くじやギャンブルが持つ強烈な魅力の正体です。私たちの脳は、確実な小さな利益よりも、不確実だが大きな利益の可能性により強く反応するように進化してきたのです。

実践的応用: この知識を逆手に取り、「将来の資産増加を視覚化する」ことで貯蓄や投資のモチベーションを高めることができます。投資アプリの多くが採用している「将来の資産推移グラフ」や「目標達成までのカウントダウン」は、この脳科学的メカニズムを活用した優れたデザインなのです。


「現在バイアス」が破壊する長期的思考

ハーバード大学のデビッド・ライブソンとMITのマシュー・ラビンが提唱した**「現在バイアス(Present Bias)」**は、人間が現在の利益を過大評価し、将来の利益を過小評価する傾向を指します。

この現象は、脳の進化的な背景にあります。狩猟採集時代の人類にとって、「今日食べられる果実」は「来月食べられるかもしれない果実」よりもはるかに価値がありました。しかし、現代の金融システムにおいては、この本能的な判断が私たちの資産形成を阻害する要因となっています。

数値例: 多くの人が「今すぐ100万円」と「1年後の110万円」を選択する場合、前者を選びます。これは年利10%という非常に有利な条件を放棄していることになりますが、現在バイアスがその判断を歪めているのです。

対策:

  • 自動化システムの構築: 給与天引きの積立投資や自動引き落としにより、「現在の自分」が「将来の自分」の利益を奪うことを防ぐ
  • 将来の自分との対話: 10年後、20年後の自分に手紙を書く、将来の目標を具体的に描くなど、時間的距離を縮める工夫
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