― お金の不安が人間関係に及ぼす影響とは? ―
「金の切れ目が縁の切れ目」とはよく言われますが、それが科学的にどこまで正しいのかを検証したメタ分析研究が報告されています。
◆ 研究概要
- 対象論文数:34件(基準を満たした高品質な研究)
- 対象者数:34,007人
- 調査内容:
・経済的状況の「改善」(41%)と「悪化」(59%)がカップル関係にどう影響するか
・夫婦関係の「ポジティブな側面」と「ネガティブな側面」を数値化して比較
◆ 測定された関係性の指標
指標 | 内容 |
---|---|
ポジティブな関係性 | 思いやり、共感、支援、前向きな対話など |
ネガティブな関係性 | 解決につながらない口論、無視、中傷、冷たい態度など |
◆ 主な研究結果
- 経済的なストレスは、夫婦関係の多くの面でネガティブな影響を与える
- 特に以下のような傾向が見られた:
ストレスによる影響 | 説明 |
---|---|
口論の増加 | 対立が頻発するようになる |
無視などの回避行動の増加 | パートナーの話を聞かなくなるなどの行動が目立つ |
サポート行動の減少 | 相手を気遣う余裕がなくなる |
満足度の低下 | 関係全体への満足感が下がる |
破局のリスク増 | 関係の終焉につながりやすい |
◆ 追加的な考察・傾向
- 経済的に厳しいカップルほど悪影響が強くなる
- 国によってストレス耐性に差がある
- アメリカ:特にストレスに弱い傾向
- 韓国・トルコ:比較的耐性が高い
◆ 背景理論:「家族経済的ストレスモデル」
この研究は、以下の仮説に基づいています:
- 経済的困窮 → 心理的ストレスが増加
- ストレス → 夫婦間・親子間のやりとりに悪影響
- 結果的に人生全体の満足度が低下
今回のメタ分析は、この理論の妥当性を改めて支持するものとなっています。
◆ 経済的ストレスの自己チェックツール(筑波大学)
筑波大学の研究チームが開発した金銭的ストレス評価質問紙を使えば、現在の家庭の経済的な不安を自己評価できます。
回答方法:
- 設問1〜11:1(まったく当てはまらない)〜7(完全に当てはまる)
- 設問12〜17:1(金銭的に厳しい)〜7(金銭的に問題ない)
- ★マークの設問は「逆点」(=スコアを反転してカウント)
設問一覧(抜粋):
- 現在の収入ではやりくりが難しい
- 将来的に生活が立ち行かなくなるのではと不安
- 家族が必要とする食料や衣服を買える金銭的余裕はある(★)
- 現在の収入で望ましい生活水準を保てている(★)
- 食費に関する負担感
- 子どもの教育費の支払い能力
スコア合計の基準値は設定されていませんが、経時的に記録して変化を見ることで、ストレス増減の把握に役立ちます。
◆ まとめ
- 金銭的な問題は、カップル関係に多方面から悪影響を与える
- たとえ仲の良いカップルでも、経済的な不安が続くと関係性は揺らぎやすい
- 客観的な自己チェックを取り入れて、早めに対策・対話のきっかけを持つことが重要
参考:
Falconier, M. K., et al. (2020). Meta-analysis on the effects of financial strain on couple functioning: A cross-cultural perspective.
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