「自分で自分の仕事を中断するほうが、他人からの妨害よりも作業効率が落ちる」──そんな意外な結果を示した心理学の研究論文(1)が話題になっています。
「ながら作業」の実験で明らかになったこと
ここ数年、心理学では「マルチタスクが生産性を著しく下げる」という見解が主流となっています。たとえば、スマートフォンが机の上に置かれているだけでも集中力が低下し、作業効率が大幅に落ちるという報告もあるほど。人間の注意力は、それほどまでに「ジャマ」に弱いようです。
今回の実験では、28人の被験者に対して、いわゆる「ながら作業」をしてもらう形式で研究が進められました。実験の内容は次の通りです:
- メインタスク:顧客対応のメールを送る
- サブタスク:友人とのライブチャットでの雑談
ここで研究者たちは、雑談のタイミングに2パターンの条件を設けました:
- 自分の判断でチャットのタイミングを決められるグループ
- チャットが届いたら即時に返信しなければならないグループ
つまり、能動的に作業を中断するのと、受動的に中断させられるのとで、作業効率に違いが出るかを調べたのです。
結果:自発的な中断の方が効率をより低下させる
実験の結果、自分の意思で作業を中断したグループのほうが、平均して6%ほど作業スピードが遅くなったことが明らかになりました。意外にも、外部から強制的に妨害された場合よりも、自分から中断したほうが効率が下がってしまったのです。
この現象は、脳の意思決定負荷によって説明されています。
- 自分の意思で中断する場合:どのタイミングで切り替えるか、どれぐらい中断するかなど、脳が判断を下す必要があり、そのプロセス自体が認知的コストを生む。
- 外部から中断される場合:選択の余地がないため、脳は判断を回避できる。
つまり、選択肢があるほど人の脳は疲弊しやすく、それが効率の低下につながるのです。
集中を保つためには「見えないようにする」ことが重要
この研究結果からわかるのは、作業中の集中力を維持するためには、ただ通知を切るだけでは不十分であるということ。たとえば、スマホが視界に入るだけでも脳には無意識の負荷がかかりますし、開いたままのSNS画面やBGMですら注意力を分散させてしまう可能性があります。
したがって、本当に集中したいときは、通知オフだけでなく、視界からあらゆる誘惑を物理的に排除するのが最善といえそうです。「ながら作業」が想像以上に脳に負担をかけている、ということを念頭に置いておくべきでしょう。
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