近年、運動がメンタルヘルスに良い影響を与えるという研究は数多く発表されており、とりわけ有酸素運動に関するデータが豊富です。一方で、筋力トレーニング(筋トレ)に関しては、これまで明確なエビデンスがやや乏しいとされてきました。
しかしながら、2010年に発表されたジョージア大学のレビュー論文では、筋トレとメンタルヘルスの関係について、過去の研究を網羅的に調査・評価した内容がまとめられています。本稿では、このレビュー論文をもとに、筋トレが精神面に及ぼす影響についての知見を整理します。
筋トレとメンタル・脳機能に関する知見
このレビュー論文から導かれた主なポイントは以下の通りです。
- 質の高い研究はまだ限定的なため、「筋トレが確実にメンタルに効く」とまでは言い切れない。
- 一部の研究では、筋トレによって不安感が軽減されたという結果が得られている。特に、もともとメンタルが安定している人ほど効果が大きい。
- 臨床的な不安障害を持つ人に対しては、筋トレによる明確な改善効果は確認されていない。
- 慢性痛(とくに腰痛など)に対して、筋トレによる苦痛の軽減効果が見られる(約6〜10ポイントの改善)。
- 高齢者においては、筋トレにより認知機能が向上したという研究が多く、とくに記憶力の改善が報告されている。なお、有酸素運動との組み合わせでさらに効果が高まるとされる。
- 若年層に同様の効果があるかは、現時点では明確ではない。
- うつ病の改善においても、筋トレ単独で有意な効果が報告されており、有酸素運動に限らず、あらゆる運動が有効とされる。
- 効果が現れやすいのは、若く身体的に健康な人がうつ症状を抱えているケースであり、高齢者のうつ病では効果が限定的になる可能性がある。
- 筋トレは慢性疲労の軽減にも寄与し、実際に症状を大きく和らげることができる。
- 自尊心を高める効果も確認されており、これは筋トレをやり遂げた達成感や、身体的な自己効力感が要因と考えられる。
これらの結果を総合すると、筋トレは不安感やうつ症状、慢性疲労などの改善に有効であると考えられます。ただし、精神疾患の診断を受けているような深刻なケースでは、効果が限定的な可能性もあります。
筋トレがメンタルに効く理由とは?
筋トレがメンタル改善に役立つ理由については、いくつかの生理的・心理的要因が挙げられます。例えば、テストステロンなどのホルモン分泌の増加、神経系への適度なストレス刺激による脳の適応(レジリエンス向上)などが関連しているとされています。こうした背景から、ストレス耐性を高める目的で筋トレを取り入れるのも有効と考えられます。
メンタルに効果的な筋トレの方法
同論文では、メンタルへの効果が高まりやすい筋トレの方法についても簡単なガイドラインが示されています。
- 高強度のトレーニング(1RMの80%以上)よりも、中程度の負荷(1RMの50〜60%程度)で行う筋トレのほうが、メンタル面では好ましい効果が得られやすい。
- 筋トレ初心者は週に2〜3回、全身の筋肉を対象に8〜12回ずつトレーニングを実施。12回以上こなせるようになったら、重量を2〜10%ずつ増やしていく。
- 中級者は週3〜4回、上級者は週4〜5回の頻度が目安。
ただし、負荷の高低によるメンタル改善効果の差はそれほど大きくないため、自分が継続しやすいペースやメニューで取り組むことの方が重要です。
結論:筋トレは「心にも効く」ライフハック
以上を踏まえると、筋トレには以下のようなメンタル面への効果が期待できます:
- 不安の軽減
- 慢性痛の緩和
- 認知機能の向上
- うつ症状の軽減
- 慢性疲労の改善
- 自尊心の向上
まるで温泉の効能書きのようですが、筋トレをメンタルヘルスの一環として生活に取り入れることは、十分に価値があると言えるでしょう。
コメント