「自然の中にいると、なんとなく気分がすっきりする」。そんな感覚を持ったことのある人は少なくないでしょう。しかし、「なぜ人間は自然を好むのか?」という問いには、意外にも明確な答えがあるわけではありません。
そんな中で注目されたのが、「自然は人間の基本的な心理的欲求を満たす場になっているのではないか?」という仮説です。これは、心理学の分野でよく知られている「自己決定理論(Self-Determination Theory)」に基づいたもので、以下の3つの欲求を軸に考えられています。
- 自律性:自分の行動を自分の意思で選びたいという欲求
- 有能さ:自分の能力を発揮し、成長を実感したいという欲求
- 関係性:他者とのつながりを感じたいという欲求
この仮説を検証したある研究では、アメリカの南アパラチア地方を訪れたことのある795人を対象に調査を実施。被験者に「もっとも気に入っている自然エリア」を思い浮かべてもらい、その場所に対する愛着の度合いや、前述の3つの欲求が満たされているかどうかを評価してもらいました。
その結果、以下のような傾向が明らかになったのです:
- 自然の中で「自律性・有能さ・関係性」のいずれか、あるいはすべてが満たされていると感じるほど、その場所への愛着も高くなる
- これら3つの欲求の充足度が、その自然への愛着の約半分を説明できる
研究チームはこう結論づけています:
「人々が自然に惹かれるのは、その空間が自律性や有能感、他者とのつながりといった心理的ニーズを支えてくれるからである」
たとえば、
- 自律性:自然の中では、自分の好きなように行動できる(歩く、休む、食べるなど)
- 有能さ:登山や野外調理など、挑戦を通じて自己効力感が得られる
- 関係性:自然体験はしばしば家族や友人と共有され、絆を深める機会になる
特に「自律性」と自然への愛着の間には強い相関があったとされ、現代人の休息や回復において自律性が重要であることを裏付ける結果とも言えます。
ただし、いくつか注意点もあります。この研究は因果関係を示すものではなく、あくまで一時点での傾向を示したもの。また、自然の効果には「自然音による注意力の最適化」や「ネガティブ思考の軽減」といった他の要因も考慮する必要があります。
とはいえ、「自然の中でどんな行動をとるか」によって、リフレッシュの度合いが変わってくるかもしれません。たとえば森林浴に出かけるときには、「自分らしく過ごせる自由さ」や「ちょっとした挑戦」を意識してみるのもひとつのヒントになりそうです。
コメント