セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ氏の著書『直感を信じるな！（Don’t Trust Your Gut）』は、広範なデータ分析から導き出された人生の洞察を提供する一冊です。Googleの元データ科学者である著者は、前作『誰もが嘘をついている』でビッグデータが明らかにする興味深い現象をエンターテイメント性豊かに描きましたが、今作では「様々なデータを活用して人生をより良くする」という実用的な側面に焦点を当て、読者に具体的な指針を提供しています。

先行する紹介でデータに基づく育児のヒントが取り上げられたことから、本稿では本書が提示する恋愛のコツや富の築き方といった側面について詳しく掘り下げていきます。

恋愛における幸福の追求:

データ分析によって明らかになった恋愛の傾向は、しばしば直感に反するものです。統計によると、人々は幸福な関係を築く可能性が低い特徴を持つ相手を無意識に選択する傾向があることが示唆されています。例えば、外見や体型といった表面的な属性に基づいてパートナーを選ぶことは一般的ですが、これは必ずしも関係の満足度には繋がりません。具体的なデータとして、男性の身長が約2.5センチメートル高くなるごとに、出会い系市場におけるその価値が約550万円の収入に相当すると試算されるほど、ルックスが重視される傾向が報告されています。さらに、弁護士、消防士、軍人といった特定の職業に就く人々が好まれたり、宗教、職業、出身大学といった共通の背景を持つ相手、あるいはイニシャルが一致する相手を選ぶ傾向も確認されています。

しかしながら、11,000組のカップルの幸福度を分析した大規模なデータセットによれば、これらの表面的な特徴は、恋愛関係の成功や幸福度を予測する上でほとんど意味を持たないことが判明しました。相手の職業、体型、外見、あるいは収入といった要素は、カップルの長期的な幸福度とは相関が低いのです。

このような状況下で、関係の幸福度を予測する上で有意な影響力を持っていたのは、以下のわずか4つの心理的特性でした。

• 恋愛候補の誠実性が高いこと: パートナーの誠実さは、信頼と安定の基盤となり、関係の質を高める重要な要素です。
• 恋愛候補の幸福度がそもそも高いこと: 相手自身が既に高い幸福度を維持していることは、その幸福が関係にも波及し、共に前向きな経験を共有できる可能性を示唆します。
• 恋愛候補が成長思考を持っていること: 成長志向を持つパートナーは、困難に直面した際に共に学び、進化しようとする姿勢を持つため、関係が停滞することなく発展していく土壌を提供します。
• 恋愛候補が安全な愛着スタイルを持っていること: 安全な愛着スタイルを持つ個人は、安定した感情的絆を築きやすく、相手への依存や過度な不安に陥ることなく、健全な関係性を維持することができます。

これらの知見は、恋愛における真の幸福が、外見や社会的地位といった「出会い系市場」で競争力があるとされる特性ではなく、本質的に「心理的な特徴」に根ざしていることを明確に示しています。したがって、長期的な幸福を追求するためには、表面的な魅力に惑わされることなく、内面的な特性に焦点を当てることが不可欠であると結論付けられます。

富の築き方に関する考察:

著者は、富を追求すること自体が必ずしも幸福に直結しないという前提に立ち、過度な富裕層志向を推奨してはいません。しかし、それでも富を築きたいと願う個人に対しては、データに基づいた具体的な戦略が提示されています。

アメリカの納税者全体を対象とした最近の調査では、年間約1億円以上の収入を得る上位1パーセントの典型的な富裕層が分析されました。この分析結果は、富裕層の多くが「自動車ディーラーや飲料販売会社といった地方の中堅企業の経営者」であるという結論を導き出しています。

このデータから導かれる重要な洞察は、富を築く上で「所有」が極めて重要であるという点です。アメリカの富裕層におけるオーナーと賃金労働者の比率は約3対1であり、これは単に給与所得者として働く立場では、真の富裕層になることは困難であることを示唆しています。

第二に、富を築く経営者は、苛烈な価格競争から巧みに逃れる必要があります。例えば、アメリカの自動車ディーラーは、特定の地域市場と自動車メーカーとの間でサービス提供に関する法的保護を受けており、これが競争優位性をもたらしています。

価格競争を回避できるビジネスモデルは複数存在しますが、その中でも特に推奨されるのが「マーケットリサーチ」の分野です。特定のニッチなテーマに関する深い知識を習得し、その洞察を専門分野のネットワークに積極的に提供することで、他者が容易に模倣できない独自の価値を創出することが可能です。データは、このアプローチによって驚くほど多くの人々が経済的な成功を収めていることを示唆しています。

幸福の本質:

幸福に関する最も優れた研究の一つとして、「経験サンプリング・プロジェクト」が挙げられます。この革新的なプロジェクトでは、研究者が参加者のiPhoneに定期的に通知を送り、その時点での活動内容や同行者に関する簡単な質問を行うことで、300万点にも及ぶ膨大なデータセットが構築されました。この分析から明らかになったのは、多くの人々が「自然の中、特に水辺に近い場所で過ごす際に最も高い幸福度を感じる」という事実です。

さらに、ハイキングやライブイベントへの参加も幸福感と強く関連しており、これらの活動を恋愛パートナーや親しい友人と共有する際に幸福度は最大化されることが示されています。対照的に、職場の同僚と過ごす時間では、幸福度の顕著な上昇は見られませんでした。

これらのデータが示す幸福の源泉は、一見すると極めて自明なことに思えるかもしれません。しかし、現代社会において、多くの人々はこのようなシンプルな幸福を追求する代わりに、不本意な仕事に不本意な人々と共に懸命に取り組み、自然との触れ合いをほとんど持たず、その一方でソーシャルメディアに膨大な時間を費やしています。このような行動パターンは、数多くの研究によって不幸を引き起こす要因であることが指摘されています。

結論として、幸福をもたらす要素がいかにシンプルであるかを深く理解し、現代生活の喧騒や誘惑に惑わされないことが、真の幸福への鍵であると言えるでしょう。データが導き出す人生の最適な姿とは、例えば摂氏26度の晴れた日に、風光明媚な水辺を眺めながら、愛する人々と共に穏やかな時間を過ごすことなのです。

結論と日本への示唆:

元Googleデータ科学者であるセス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ氏が提示する、データに基づいた人生の「コツ」を概観しました。これらの分析は主にアメリカのデータに基づいているため、日本社会とは異なる側面も存在する可能性はありますが、提示された主要な洞察は普遍的な適用性を持つと考えられます。

• 恋愛関係においては、表面的な外見よりも心理的な性格特性を重視することが、長期的な幸福に繋がります。
• 富を築く上では、苛烈な価格競争から保護された領域において、事業の所有者となることが効果的な戦略です。
• 幸福を追求する上では、天候の良い日に自然の中で親しい人々との時間を過ごすことが、最も直接的な方法の一つです。

これらの知見は、日本においても十分に当てはまる示唆に富んだ内容であると推測されます。本稿で紹介したのは、本書が提供する膨大な情報のごく一部に過ぎません。より詳細なデータ分析や、人生の他の側面に関する洞察に興味をお持ちの方は、ぜひ原著を手に取って深く探求されることをお勧めします。