IQという指標だけでは測れない「別の頭の良さ」
「生まれつきの天才」とは、一体どんな人を指すのでしょうか?
IQが飛び抜けて高い人?それとも、何か特定の分野にずば抜けた能力を持っている人?
この問いに対して、興味深い実証データがあります。天才児の研究で有名なジョアン・ラスザッツ博士が行った調査では、「本当の天才」が持つ意外な特性が明らかになりました。
対象となった“神童たち”
この研究では、10歳までに卓越した能力を示した18人の子どもたちが対象となりました。分野別の内訳は以下のとおりです:
- 音楽の神童:8人
- 数学の神童:5人
- 芸術の神童:5人
彼らが一体どれほどの知能指数(IQ)を持っているのか、分野ごとに調べられました。
天才のIQは、意外にも「普通」に近い?
以下は各グループの平均IQスコアです:
- 数学の神童:平均IQ 140(範囲 134〜147)
- 音楽の神童:平均IQ 129(範囲 108〜142)
- 芸術の神童:平均IQ 108(範囲 100〜116)
この結果からわかるように、数学の天才は明らかにIQが高い傾向がある一方で、芸術や音楽の天才は必ずしも高IQではないことが判明しました。
特にアート系の神童は、IQ的にはごく一般的な水準であるケースも多かったのです。
「視覚空間能力」は意外な結果に
各種知能テストの結果をさらに細かく見ると、数学と音楽の神童は、語彙力、一般知識、数的能力、視覚空間認知のスコアが高かったのに対し、芸術の神童は視覚空間能力が平均以下だったという、意外な結果が出ています。
たとえば、ある芸術系の神童は視覚空間IQが**71(一般人の97%よりも低い)**だったにもかかわらず、著名なジャズミュージシャンとなり、映画音楽も手がけるほどの才能を発揮していました。
アートの才能は「記憶力」に秘密あり?
ラスザッツ博士は、芸術の才能について次のような見解を述べています。
- 天才画家たちは、記憶力が非常に優れている
- 特に、影の落ち方や細部の形状などを詳細に記憶する能力が高く、それをもとに絵を描いている
- このため、視覚空間的な処理能力よりも、頭の中に映像を保持する力が重要なのではないか
つまり、アートの才能は「空間認知のセンス」ではなく、むしろ「細部まで記憶する力」に根ざしている可能性があるのです。
共通点:全員に見られた“ワーキングメモリ”の高さ
この調査で最も顕著だったのは、**全ての神童に共通していた「ワーキングメモリの高さ」**です。
- 数学・音楽・芸術のいずれの神童も、**ワーキングメモリが一般集団の上位1%**という極めて高い数値を示していました
- 特に音楽の天才たちは、ワーキングメモリのスコアが際立って高かったとのこと
これは、「学力が伸び悩んでいる子には、まずワーキングメモリを鍛えることが大切」と言われる根拠の一つとも一致します。
自閉スペクトラムとの関連性も?
さらに調査では、神童たちの多くが自閉スペクトラム(ASD)に近い特性を持っていたことも報告されています。
もちろん、ASDの傾向があるからといって皆が天才というわけではありません。しかし、**神童たちの中には、強い集中力やこだわりの強さといった“スペクトラム的な特徴”**が見られた点は注目に値します。
まとめ:「天才」とはIQの高さだけでは測れない
この調査から見えてくるのは、次のような重要なポイントです。
- 数学の天才はIQも高い傾向にあるが、芸術・音楽の天才はIQが高くなくても、優れた才能を発揮する
- ワーキングメモリの高さが、いずれの分野でも共通する重要な要素である
- アートの才能は、視覚空間能力よりも記憶力や繊細な感覚の積み重ねが鍵となる
- 天才には、自閉スペクトラムに近い特性を持つケースもある
IQという指標だけでは測れない「別の頭の良さ」が、天才にはある──。そんな気づきを与えてくれる研究でした。
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